戸籍の外に置かれた人びと ~無戸籍問題を考える~


無戸籍(むこせき)問題とは、日本で生まれながら、出生届が出されず戸籍に名前が載っていない人が存在するという、

基本的人権に関わる深刻な社会問題です

戸籍は、私たち日本人を公的に証明する唯一の制度であり、社会で生活していくための「生きるパスポート」に他なりません

戸籍がないことは、法的に「人」として認められないことに等しいのです


この問題が発生する最大の原因は、長らく日本の民法が定める「嫡出推定」のルール、

特に「離婚後300日問題」にありました

旧法では、女性が離婚後300日以内に出産すると、その子は前夫の子と推定されてしまいます

新しいパートナーとの子どもであっても、前夫の子として戸籍に載る事態を避けるため、

「子どもを守りたい」と願う母親がやむを得ず出生届の提出を諦めてしまうケースが多発しました

背景には、DVからの逃避や極度の孤立、貧困といった複雑な事情が絡んでいます


戸籍がない人々は、住民票も作れず、生活のあらゆる面で大きな困難に直面します

国民健康保険証や児童手当などの行政サービスを十分に受けられないだけでなく、

社会生活においても、銀行口座の開設、携帯電話の契約、就職活動やパスポートの発給など、

日常生活で必須となる手続きが困難になります


こうした状況を解決するため、国は法改正に踏み切りました

昨年、民法が改正され、離婚後300日以内であっても、再婚後に生まれた子は再婚相手の夫の子と推定されることになり、

問題の根本的な原因は解消されました

現在、法務局には無戸籍者向けの専門相談窓口が設けられ、特別な手続きによる戸籍取得の支援も行われています


民法改正は、問題解決に向けた大きな一歩となりましたが、過去に生じた無戸籍者が直面する課題は残されたままです

制度の空白に取り残された人々が尊厳ある生活を送れる社会を実現するためには、

私たち一人ひとりがこの問題を他人事とせず、継続的な理解と支援の輪を広げることが不可欠です




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